敢えて言おうカスであると
「あえて言おう！カスであると！」 <br> このセリフは、『機動戦士ガンダム』第42話「宇宙要塞ア・バオア・クー」にて、 ジオン公国総帥ギレン・ザビが行った戦意高揚演説の一節である。<br><br> 地球連邦軍の艦隊をソーラ・レイで殲滅し、その勝利に酔いしれたギレンは、 自軍の兵士たちを前にしてこの言葉を放つ。 敵を“軟弱の集団”と断じ、自らの理想を“選ばれた優良種の支配”として正当化するこの演説は、 **ジオンという国家の狂気とギレン自身のカリスマの頂点**を象徴している。
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修辞の暴力としての「敢えて」
「敢えて言おう」という前置きは、 “本来なら口にすべきでないことを、あえて語る”という修辞的効果を持つ。 この慎重な導入があるからこそ、直後の「カスである」という罵倒が、 単なる感情ではなく**確信に満ちた理論的侮蔑**として響く。
ギレンは、理性の仮面を被った激情の政治家であり、 この一文は彼の**理性による狂気の表現**そのものだ。 「敢えて言おう」という冷静な語り口が、むしろ残酷さを増幅させている。
カリスマと独裁の臨界点
この演説が名高いのは、その内容が単なるプロパガンダを超え、 **独裁者の自己陶酔と論理の危うさ**を極限まで可視化しているからである。 “ジオンの正義”“選ばれた種”といった語彙は、 歴史上の全体主義者たちが用いてきた言葉の反響でもある。 つまりこの場面は、宇宙世紀という虚構世界を借りた**人類史の鏡像**なのだ。
ギレンが兵士を鼓舞するその口調の中に、 理想主義と狂信の境界を越える一瞬の美学がある。
ネットミームとしての再生
現代では「敢えて言おう、○○であると」という形式が、 強調や皮肉のテンプレートとして広く用いられている。 その汎用性の高さは、原文の**リズムと権威の構文美**に由来する。 “断言口調＋独断的宣言”という構造が、 どんな文脈にも劇的効果を与えるため、ネット文化においても生き続けている。
皮肉にも、このミーム的再生は、 ギレンが求めた「理想の永続」を**言語の形で実現してしまった**とも言える。
「言葉の独裁」への警鐘
「敢えて言おう カスであると」は、単なる敵愾心の発露ではなく、 言葉が群衆を支配する瞬間を描いた**政治的ホラー**でもある。 この一言に込められた“言語の力”は、 戦争の悲劇と同時に、**言葉の危険な美しさ**を観る者に突きつけている。
ゆえにこのセリフは、今なお引用され続ける“威厳ある悪の詩”として、 ガンダム史を超えて語り継がれているのである。
