コモドドラゴンを放て
「コモドドラゴンを放てッ」 <br> このセリフは、猿渡哲也の漫画『Rūnin（ルーニン）』に登場する一幕である。 白人系ギャングのボス・ビッグ・アイが、 敵対する黒人ギャングの襲撃に対して発した命令の言葉で、 作中でも屈指の**唐突かつ衝撃的な“猿展開”**として知られている。<br><br> 襲撃に備えて放たれたのは、銃でも爆薬でもなく―― 絶滅危惧種の巨大爬虫類、**コモドドラゴンの群れ**である。 戦闘描写の緊張感と、この異様すぎる選択の落差が、 読者の理性を置き去りにして笑撃を与えた。 まさに猿渡作品が誇る“理不尽の神話化”を象徴する一コマである。
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唐突さが生む神聖なギャグ性
この場面の最大の魅力は、状況説明が一切ないことだ。 なぜ高層ビルにコモドドラゴンが何十匹もいるのか、 どこから調達したのか、どうやって飼っていたのか――誰も説明しない。 その一切の理屈を放棄した潔さこそが、猿渡哲也作品の神髄である。 **「説明がない＝リアリティがある」**という逆説的効果により、 読者は「そういう世界なんだ」と納得してしまう。 唐突が必然に変わる瞬間――それが“猿展開”の到達点である。
動物兵器という猿渡的幻想
猿渡作品において“動物”はしばしば**野生の象徴であり、暴力の代弁者**として登場する。 『TOUGH』における鬼熊や、『高校鉄拳伝タフ』の猛獣描写にも通じるが、 ここでのコモドドラゴンは明確に“兵器”として扱われている。 つまり、自然が完全に人間の暴力構造に組み込まれているのだ。 生物の神秘を利用するその暴力性は、猿渡作品に通底する “生命の聖俗両義性”を凝縮している。
ビジュアルがもたらす“神々しい愚かさ”
ページ一面を埋め尽くすコモドドラゴンたちの作画は、 爬虫類特有のヌメりと重量感が異常なほどリアルに描かれており、 もはや恐怖ではなく**荘厳さ**すら感じさせる。 この“真面目に描くからこそ笑える”猿渡式ギャップ演出が、 読者に強烈な印象を刻みつけた。 ギャグでもなくシリアスでもない、 **「狂気が神話化した瞬間」**がここにある。
コマ単体で独立する文化的生命
「コモドドラゴンを放てッ」は、今や原作を知らない層にも広く認知されている。 単独のコマとしてネットで拡散され、 「○○を放てッ」と改変される形で**ミーム化**した。 この“意味の脱構築”こそ猿渡作品の特質であり、 物語の一部が独立して文化的現象となる―― それはまさに**猿空間を超えて残る言葉**の証明である。
