すごい数の信者が集まってきている
「すごい数の信者が集まってきている」 <br> このセリフは、猿渡哲也の漫画『DOKURO -毒狼-』第4話「哀」で登場する一言である。 信者数50万人を誇る過激な宗教団体「涅槃創生会」を脱会した暗殺者・キクチタケオが、 再びその追っ手に囲まれるシーンで、仲間のシンが状況を説明するために発した台詞である。<br><br> 目の前に広がるのは、整然と祈りを捧げながら迫り来る信者の群れ。 人間というより“群体”として描かれるその群衆描写は、 単なる敵勢力の登場を超え、**集団狂気の可視化**として強烈な印象を残す。 この一言には、猿渡作品に通底する**「信念が暴力に転化する瞬間」**が凝縮されている。
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信仰と暴力の距離のなさ
「すごい数の信者が集まってきている」という淡々とした報告口調には、 恐怖や焦燥といった感情が一切含まれていない。 その冷静さが逆に、**信仰の異常性を際立たせる**。 祈りを捧げる姿がまるで軍隊の整列に見えることで、 “信仰＝秩序”が“暴力＝制圧”へと裏返る猿渡的転倒構造が生まれている。 この「平穏な言葉に潜む暴力性」こそ、猿渡作品の美学である。
群衆描写の異様なリアリティ
この場面の特徴は、モブ描写の異常な密度にある。 個々の顔や祈りの仕草まで緻密に描き込みながら、 誰一人として“人間”としての表情を持っていない。 その結果、ページ全体が**一枚の宗教的ホラー絵画**のように機能し、 言葉の軽さと画面の重さが異様なコントラストを成す。 まさに“猿渡的群像構図”の代表例であり、 現実のカルト報道を想起させるほどの現実味を帯びている。
日常語の中に潜む終末感
「すごい数の信者が集まってきている」という台詞自体は、 状況説明として何の特別さもない平易な日本語である。 だがその文脈――祈りの姿勢、無言の群衆、銃を持つ老婆――の中で発せられると、 日常語がそのまま**“黙示録的警鐘”**に変わる。 つまり猿渡作品では、 特別な言葉ではなく“凡庸な語彙”こそが狂気を映し出す。
ネットミーム化と再文脈化
現代ではこのコマが単体で拡散され、 SNS上で「信者（ファン）が集まる」状況を皮肉るミームとしても使われる。 新作発表時のファンの熱狂や、過剰な同調現象を表す際のアイロニーとして機能し、 その汎用性から“猿渡的社会風刺”として再評価されている。 つまりこの一枚は、**宗教的支配→消費社会的熱狂**という “現代の信仰構造”そのものを可視化する象徴へと変化したのである。
